重粒子線がん治療というものをご存知でしょうか?

「がんが怖い」
「抗がん剤治療は辛いらしい」
「人生の最後をガンで苦しむのはいやだ」

こんなふうに感じている方は多いのではないでしょうか?

日本人の死因のトップは悪性新生物(腫瘍)ですが、新しい治療法として重粒子線によるがん治療が脚光を浴びています。

今まで治療することのできなかった患部にも重粒子線を1回照射すれば、治療を完了できる夢の治療法です。この記事では近い将来現実となる夢の治療法「マルチイオン照射」を紹介します。ぜひ最後まで読んで、がん治療について理解を深めていただけたらと思います

 

重粒子線治療とは

放射線治療の一つです。

重粒子線とはイオン化した原子核を加速してつくる粒子ビームの一種です。光速の70%(秒速20万km以上)まで加速させた炭素イオンビームを患部に照射し、炭素イオンがガン細胞のDNAを切断することでがん細胞が自らの細胞を修復できなくさせることで死滅させる治療法です。

現在でもこの治療は行われており、例えば膵臓がん治療では週4回×3週間の計12回の照射をおこなっています。しかし、将来的にはマルチイオンを照射することにより1回の照射で治療を終了させることが可能と考えられています。

重粒子線治療が可能な施設は世界に14ヶ所のみで、うち半数の7ヶ所が日本にあります。非常に効果的な治療法のため、更なる普及を目指したしたいところですが、重粒子を加速する装置がサッカーグラウンド1面分ほど必要なため治療装置の小型化を図る課題があります

 

従来から行われているX線治療とは

X線を人体に照射すると、体内に入るときに最も殺傷能力が高くなり、表面には効果的であるが患部が深くなるほど効果が弱くなってしまう弱点があります

一方重粒子線は殺傷能力のピークをガン細胞の場所や形にピンポイントで合わせることができるため、がんを効率的に治療することができ、その殺傷効果はX線や陽子線(放射線の一種)の約3倍と言われています。

 

今までの重粒子線がん治療

重粒子線がん治療とは炭素イオンを加速してがん細胞に炭素イオンビームとして照射することでがん細胞を死滅させる治療法です。

しかし殺傷能力が高すぎるゆえ、がんの周辺にある正常組織への影響を抑えるため患部へ十分に照射することができないことが課題でした。

その影響を解消しうる画期的な治療法が量子科学技術研究開発機構によって開発されました。今回はその付属病院であるQST病院の山田滋病院長のお話をお伝えしていきます

 

 

マルチイオン照射とは

患部に照射する重粒子線にはいろいろなイオンが利用可能です。しかもここで原理量の大きいイオンほど殺傷能力が高くなります。

そこで腫瘍の中心には殺傷能力の高い重い粒子をあて、腫瘍の周辺の正常組織に近い部分には殺傷能力の低い軽い粒子を選択的に当てる技術がマルチイオン照射です。

ヘリウム(原子量4)<炭素(原子量12)<酸素(原子量16)<ネオン(原子量20)  

 

 

マルチイオン照射のメリット

メリット1  治療効果の向上 副作用の軽減 

がん中心➡︎殺傷能力の高い酸素イオンやネオンイオン
中心以外➡︎中程度の殺傷能力をもつ炭素イオン
がん周辺➡︎殺傷の能力の低いヘリウムイオン
中心部分には高い治療効果が見られ、周辺組織への副作用を減らすことができる
 
 
 

メリット2  手術ができないがんへの治療 

膵臓がんの多くは遠隔転移や局所進行膵がんが起こっておりすでに治療できないような状況が多くみられました。この中で遠隔転移が起きていないケースにおいては重粒子線の適応が可能となります
X線治療・・・23%
現在の重粒子線治療・・・53%  ※今後マルチイオン照射を行うことで更なる効果が期待できる
 
 
 
 

メリット3 治療期間の短縮
粒子が重くなることで、照射時間の短縮が可能。将来的には1回だけの照射で治療終了することを目指している

 

 

マルチイオン照射のデメリット

 

ここまでお話ししてきて重粒子線ガン治療が素晴らしい治療法であることがわかったと思います。

しかし、マルチイオン照射の普及には課題があります。それは、重粒子を加速する加速器のサイズです。2022年現在の技術では縦65m 横120mほどありサッカー場一面分の大きさが必要です。これだけの施設を用意するとなると簡単ではありません。そこで2030年ごろまでに大きさを40分の1サイズへ(病室1つ分)縦10m横20m程度の大きさを最終的な目標として現在研究中です  

 

 

実用化の時期

大きな腫瘍特に骨軟部腫瘍に対してマルチイオン照射の臨床試験を2022年度中あるいは遅くとも2023年度中には開始する予定です。 臨床試験が終え、2026年中には一般の人も受けられるように研究が進められています

眼腫瘍(悪性黒色種) 頭頸部がん(鼻・副鼻腔など) 食道がん(I期) 肺がん(非小細胞型I〜Ⅲ期) 肝臓がん(4cm以上) 肝内胆管がん 膵臓がん 腎臓がん 子宮頸がん(腺がん) 子宮頸がん(扁平上皮がん) 前立腺がん 大腸がん(術後再発) 骨軟部肉腫 肺転移 /肝転移 /リンパ節転移(3個以内)      ※赤ラインは保険適用。それ以外は先進医療
 
 
肺がん(I期)の治療費 先進医療314万+入院・検査費などとなるが、保険適用とはなっていない
 
 
膵臓がんの治療費
237.5万円+入院・検査費などとなるが、保険が適用され高額療養費制度を活用することで、実質の負担は数万円から数十万円となる (年齢・収入により異なる。※入院時の食費負担や差額ベッド代等は除く)
 
 

マルチイオン照射が2026年に実用化したとした場合、314万円程度の先進医療として始まることとなる。そこで効果が確認されてはじめて保険適用となる予定である

 

 

まとめ

 

不治の病と言われていたがんを治療する技術は日々進歩しています。

この記事で紹介したマルチイオン照射も2026年には実用化できるようになるでしょう。しかし新しい医療技術に期待しつつもタバコをやめるなどがんにならないよう生活を改めることも大切です。 人生100年はもうすぐです。余生を健康に楽しく過ごすためにも健康に十分気をつけていきましょう