【安全性】福島第一原子力発電所処理水の海洋放出

 

福島第一原子力発電所の抱える問題

2011年の福島第一原子力発電所での事故以来、福島では廃炉に向けた作業が行われています。その中で注目を増してきているのは日々大量に発生し続け、行き場を失っているトリチウムを含む処理水の存在です。

事故で溶け落ちた核燃料の冷却などによって1日140トンのペースで汚染水が発生しています。この汚染水は敷地内の専用の浄化設備に送られ複数の吸着剤を使って多くの放射性物質が取り除かれますが、「トリチウム」という放射性物質は取り除くことが難しく処理された水の中に残ってしまいます。このトリチウムを含む処理水が大型のタンクにためられているのです。

福島第一原発の構内に設置されたタンクの数はおよそ1000基で容量はあわせて137万トンにのぼりますが、2021年3月時点で125万トンまで溜まってきています。これは平均的な25mプールの水を540トンとすると約2,315杯分に当たり、さらに約3.9日でプール一杯分の割合で増え続けているのです。

トリチウムって何?

トリチウムとは水素の仲間で、放射性物質の一種。(半減期は12.3年)。

通常の水素の原子核が陽子1個でできているのに対して、トリチウムは陽子1個と中性子2個からなります。トリチウム原子は通常の水素よりも重いため、トリチウム水は普通の水より密度が高く、沸点融点が高いといった特徴をもちます。

トリチウムは不安定なため、放射線の1種であるベータ線(高速で飛ぶ電子)を放出しながら安定なヘリウム原子に変化する性質があります。全体の量が半分になる目安(半減期)が12.3年なので、4分の1になるにはその倍の24.6年、100年間で約256分の1になります。

放射性物質って危険じゃないの?

危険です。

放射線は主に細胞のDNAを傷つけてがんを引き起こすなど、人体に悪影響を与えます。放射線の人体への影響を表すのに使われる単位がシーベルトです。

このシーベルトとはかなり大きな単位で1シーベルトと言っても油断できない大きさです。

1年間に約0.1シーベルトを超えると、がんを発生するリスクが徐々に増えていくと言われています。
また、短い時間に1シーベルトの放射線を浴びると吐き気を感じ、2~5シーベルトで頭髪が抜け、3シーベルトを超えると30日以内に50%の人が亡くなる。とも言われています。

トリチウムから放射されるベータ線は皮膚を数ミリ程度通過し熱傷(やけど)のような症状を引き起こしますが、体の奥深くまで届くことはありません。そのため体の外から与える影響(外部被曝)はあまり大きくないと言われています。

外部被曝で怖いのは透過力が高く体の奥の重要な臓器まで到達するガンマ線です。

しかし、飲食などによって体に取り込まれたトリチウムよる影響(内部被曝) には気をつける必要があります。

各国の原子力施設からは毎年トリチウムを含む水が海に放出されています。日本の排出基準は厳しく、施設から放出される水の基準を1リットルあたり6万ベクレル以下としています。(ベクレルは放射性物質が出す放射線の量を表す単位)

6万と聞くとすごい量のように感じるが、1リットルあたり6万ベクレルとは、70歳まで毎日飲食によって取り込むことによる1年あたりの被曝量が0.1シーベルト以下に相当します。つまり、この水を70年間飲み続けて70歳をこえた頃やっとガンの発生リスクが表れてくる程度の危険性です。

放射線の話ではとても小さい数字から大きい数字まで出てきますが、それぞれの意味をよく理解することが大切です。
20シーベルトは昼食代500円より小さいから安全とか、6万ベクレルは、お小遣い1万円より大きいから危険といった日常の数字で考えないようにしましょう。

ちなみに20シーベルトはとても危険です。私なら全力で逃げます。
だけど1リットルあたり6万ベクレルは安全です。
 
70歳になってもガンになるのはいやだよ

そこで福島第一原発は1リットル6万ベクレルをさらに薄めてその2.5%の1500ベクレルまで薄めてから海洋に放出しようとしているのです。

2.5%ってことは40分の1だから2800歳になるとガンが発生するリスクがでてくるってことだね。それならちょっと大丈夫そうな気がする…

2800年間には半減期を約230回迎えているから、トリチウムの量はほぼ0です。


福島から放出が予定されているトリチウムの量は最大で22兆ベクレルと言われています。

22兆なんてすごい量ね。そんなに放出して大丈夫なの?

確かに日常生活の中で22兆なんて数字はあまり聞きません。日本の国家予算だって100兆円くらいだから数字の大きさにびっくりしてしまうかもしれませんが、原子の世界では決して大きな数字ではありません。
例えば大さじ1杯の水の中には約1000垓(がい)の水分子が含まれています。これは10000000京(けい)であり、兆の単位に直すと100000000000兆個の水分子ってことです。

原子の世界は日常生活とオーダー(桁数)が違うのです。

でも22兆ベクレルものトリチウムを放出したら漁業関係者や周りの国はいい顔しないんじゃない?

大変心配しています。

漁業関係者や隣国はとても心配していますが、これは汚染物に対する不安感と原子力に対する理解不足が原因となっているのです。
この程度のトリチウムは人体に問題ないため韓国の古里原発からだって毎年50兆ベクレルのトリチウムを放出していますし、中国の福清原発からだって毎年52兆ベクレル、フランス なんて1京1400兆ベクレルのトリチウムを放出しているのです。

トリチウムは他の水と同様に体から排出されるものです。有機水銀のように体に蓄積することもないので、全ての処理水を1年間かけて海洋放出したとしても人体への影響はほとんどないと考えられています。

トリチウムを科学的に取り出す4つの究極の方法

「それでも不安だ。トリチウムをなんとかして水から全部取り出すことはできないの?」と思われる人もいると思います。結論から言えば、トリチウム水と水を分離することは原理的には可能です。

①蒸留のしやすさを利用

水(H20)の沸点は100℃ですが、水素がトリチウムに置換した水(T20)の沸点は101.5℃なので、この違いを利用して分離する。大量の分離が可能だが、分離能力は低い。

②電気分解のしやすさを利用

水とトリチウムの電気分解の速度の違いを利用して分離する。

③水素蒸留法

電気分解した後、気体を沸点以下にまで冷やし、蒸留によって通常の水素(-252.8℃)とトリチウム(-248.1℃)を分離する。分離能力は高い。

④同位体交換法

トリチウム水中のトリチウム原子が触媒の効果で気体水素と交換されることを利用する。低エネルギーで分離が可能だが、触媒となる白金が必要となる。

しかし、これらの方法を使ってトリチウムをこれ以上薄めることは馬鹿みたいに予算がかかる割にこれといったメリットがありません。科学的にナンセンスと言えるでしょう。
なぜならすでに1リットル当たり1500ベクレルまで薄めている。これは世界的に見ても人体への影響という面から見ても十分に薄い。1500という数字が大きく感じるかもしれないが、原子の世界の数字は日常の数字とは桁が違うものなんです。

まとめ

処理水をこれ以上薄めることに力を尽くすより、この数字が安全であることをより多くの人に理解してもらうことに尽力する方が風評被害などの社会的なリスクを抑えるのに効果的です

トリチウムを含む水の排水は危険ではないってことね。
じゃあ原子力発電もきちんと理解すれば、事故があっても危険な発電じゃないってこと?

いいえ。それは全く違います。
今回のトリチウムを含む水の排水については全く問題ないと思いますが、原子力発電とりわけ核分裂による発電は人間が扱うべきではないと考えています。
将来可能になると言われている核融合発電だって放射線こそ出しませんが大きなエネルギーを生み出し大きな熱が発生するわけで、地球の温暖化につながります。
便利な生活を追い求めるだけでなく、少し不便でも省エネを心がけ自然環境と調和して生活することが、最終的には一番幸せになれると考えています。

今回の記事が、皆さんのトリチウム排水に対する不安を取り除くのに役に立てば嬉しいです。^_^